鈴木商店こぼれ話シリーズ㉒「"本家(鈴木家)の規定"などユニークな社内規定で大家族主義を実践」をご紹介します。

2018.1.28.

DSC_0199現行例規集.jpg鈴木商店「現行例規集」は全10編にて構成されている。第2編には「本家」として鈴木家に関わる規定が定められている。「本家参趨方の件」、「本家贈与品に関する件」、「お家様写真贈与の件」および「本家慶弔金に関する件」の各通知は、大正8(1919)年から大正9(1920)年に出された大家族主義の鈴木商店特有の規定と云える。

「本家参趨方の件」では、次に該当する者は本家(鈴木家)に挨拶に趨くほか、盆正月は勿論その他随時庶務課に申し出たうえなるべく本家にご挨拶に伺うようにとの通達である。                                               1.新たに採用された店員(妻帯者はなるべく妻同伴のこと) 2.欧米、東洋方面および植民地へ転勤または出張する者、帰朝した者(妻帯同者は妻同伴にて参趨すること。妻のみ出発または帰朝の場合は妻単独で参趨のこと) 3.神戸および近辺(鳴尾、大阪を含む)より他へ転出する者、他地区より神戸および近辺に転入した者 4.神戸および近辺に在勤する店員が結婚したとき(妻同伴のこと) 5.各地に在勤する者で参趨したことのない店員が神戸および近辺に出張したとき・・・・お家さんができるだけ多くの社員と直接触れ合うことを望んだことが良く理解できる。

「本家贈与品に関する件」では、妻同伴で本家に参趨する場合、本家より紋服(家紋をつけた礼装用の和服)を贈与されることが定められている。

「お家様写真贈与の件」では、社員となって1年を経過した妻帯者には所属主任を通じ申請すれば本家よりお家様の写真を贈与されると通達されている。

こうした規定は鈴木商店がお家さんを中心とした大家族主義を象徴するものと云えよう。

「柳田富士松伝」にも"鈴木商店の店風"についての記述があるが、やはりお家さんの人柄からもたらされる大家族主義と云える。

「お家さん」は常に人材登用に心を須いておられた。一度店員として採用された者には極めて懇篤で親切で、世間の富豪とは大いにその趣を異にし、ほとんど家族同様の待遇をしたのである。たとえば丁稚給仕や、下女下男の末に至るまで絶えず親しみをまさせるために、一堂に慰安優遇して互いに談笑させ、また店員の妻子眷属に至るまで相当の手当てを与え彼我の昵懇を図り、結婚を仲立ちし勧祝の行事を盛んに催したり、あるいは多数の家族を集めて団らんにその日を過ごさせるといったような、普通人の想像も及ばない点に意を用いた。

店員にもし病気または死亡等があった時は遺族扶助の途も講じ肉親も及ばない面倒を見てやった。一時三千余名の店員を擁し、それらが日夕機械のように働いて等しく慈母のように「お家さん」の徳望を敬慕し協力一致して店を隆盛させるために努力したのは全く"和を以て第一とする"「お家さん」の心的作業の反映であった。

店員の待遇は全く温情的家族主義であった。中華民国(台湾)の現行家制法第一一二三条に「家には家長を置く。家を同じくする者は家長を除くの他均しく家族とす。親族に非ずといえども永久の共同生活を目的として一家に同居する者は家族と見做す」とある。この三項とも鈴木商店の大家族主義に暗合した点があるように思われる。

鈴木商店各地の宿舎(社宅)および関係会社の宿舎(社宅)に「済美寮」と「済美」の名称を付すことを定める社内規定も鈴木の大家族主義からもたらされたもの。(「鈴木合名会社済美会会則」)

"社員全員を一つの家族と考えて絶対にリストラはしないという大家族主義、株式は公開しないで、必要な資金はすべて銀行等からの借入金で賄う。"---これは鈴木と同様、個人商店から出発した「出光興産」のモットーであるが、鈴木商店の大家族主義、金子直吉の経営信条にも相通ずるものがあり興味深い。

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