鈴木商店こぼれ話シリーズ㉛「金子直吉夫人・徳さんは、俳人・高浜虚子と親交があった著名なホトトギス派俳人」をご紹介します。

2018.7.7.

DSC_0004金子せん女(左)と長谷川かな女.jpg金子直吉の妻・徳子(本名:徳、明治12(1879)年生)は、直吉が高知時代に奉公した主家(質商のち砂糖商)・傍士(ほうじ)久万次の三女。徳夫人はホトトギス派の俳人で「せん女」と号し句集「なつくさ」を発刊(昭和8(1933)年)した 。ホトトギス派の代表・高浜虚子とも交遊があり、虚子は、大正10(1921)年春、須磨一の谷の金子別荘「一の谷山荘」を訪れている。(写真は金子せん女(左)と長谷川かな女(右))

ホトトギス派の由来となった俳句雑誌「ホトトギス」は、正岡子規の友人・柳原極堂が明治30(1897)年、正岡の俳号「子規(ほととぎす)」に因んで創刊した。当初は総合文芸誌としてスタートし、夏目漱石が「吾輩は猫である」を同誌に発表したことで知られる。その後、同誌は子規の弟子の高浜虚子に引き継がれ、俳句専門誌と変わりホトトギス派が確立された。

俳句誌「ホトトギス」は現在、虚子の直孫の稲畑汀子氏に引き継がれ、また虚子に関する資料の保存と公開を目的に公益財団法人「虚子記念文学館」(兵庫県芦屋市、館長稲畑汀子氏)が稲畑氏の住居に隣接して建てられているが、平成27(2015)4月には「大正期女流俳句の変遷」と題する展示会が開かれた。

同展示によると大正初期、虚子の働きかけによりホトトギス派に女流俳人の裾野を広げたことにより、ホトトギス編集員・長谷川零余子の妻・かな女(写真の右の人物)、阿部みどり女、須磨の金子せん女、越後の西脇茅花女などが初期女流メンバーとして加わったことが紹介されている。展示会チラシには、金子せん女(金子徳)が詠んだ短冊「冬ばらの紅させばすぐ散りぬ」が掲載されている。(展示会チラシの右から2番目)

大正中期に同派に加わった杉田久女が、昭和2(1927)2月発行の「ホトトギス」誌上でせん女の句を紹介しているが、"せん女には病の句がたくさんある"と病弱の身を案じている。

〇灯におぢて鳴かず廣葉の虫の髭    せん女    〇白萩のこまこまこぼれつくしけり   せん女                                                   〇山駕にさししねむけや葛の花     せん女    〇病んでさへおればひまなり菊の晴れ  せん女                                                 〇鈴虫や疾は疾我生きん        せん女    〇極月や何やらゆめ見病みどほし    せん女                                                  〇病みながら松の内なるわが調度    せん女    〇よき母でありたき願ひ夜半の冬    せん女                                                 〇極月や婢やさしく己が幸       せん女    〇母が手わざの葛布をそめて着たりけり せん女                                                 〇わが編みて古手袋となりにけり    せん女

また平成27(2015)年5月、「劇団青春座」が北九州芸術劇場で杉田久女の実情を描いた「久女の恋」を公演したが、久女ゆかりの人物として金子せん女が登場している。

須磨の金子別荘には、神戸は云うに及ばず全国から多くの俳人が訪れ、さながら「一の谷俳句山荘」の観を呈するほどであったと云う。金子徳夫人は大正期の女流俳人としてホトトギス派に確固たる足跡を残し、100年ほど前、文化の花が咲いた須磨の地の中心にせん女が居たことは特筆すべきと伝えられた。一方、金子直吉は、ホトトギス派の俳人でもある徳夫人のてほどきで俳句を作るようになったが、初期の俳号は「白鼠」、その後「片水」に変え多くの句を残している。

また、俳誌「須磨千鳥」の第2代主宰で、句集「緑野」を著した俳人・永田竹の春は、若き日、結核を患い療養を余儀なくされた折、ホトトギス例会で知り合った金子せん女の勧めもあって須磨の金子邸で養生することとなり、大正8年8月から6年半にわたり須磨での生活を送ったと述懐している。(句集あとがき)

竹の春は、金子邸では金子直吉の三男二女の子供たちの家庭教師をしながら、夫人・せん女(徳)の主催する句会に参加する日々を送った。高浜虚子を始め、長谷川零余子・かな女夫妻、大町桂月なども金子山荘を訪れ、これら来客の世話係をしていた。

なお、金子山荘は、一の谷の金子邸の裏手にあり、2万坪(?)の広大な邸内を散策した高浜虚子が山荘から見えた鉢伏山を詠んだ様子が記されている。(須磨神戸市編入150周年記念誌「須磨」 第10話 金子せん女と句集「夏草」 昭和45年12月30日初版発行)


 

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